変質した珪砂採掘
愛知県珪砂鉱業協同組合の担当者は開発に先立つ地元説明で「ホフマンの森で珪砂が採掘できなければ、
採掘できる場所がなくなってしまう。地場産業の危機だ」と説明していました。「この開発には業界の存亡がかかっている。
この場所で採掘できれば業界は10年間延命する」との説明もされました。はたしてそうとおりでしょうか。
まず珪砂組合の加盟企業の多くが経営危機に見舞われていることに異論をさしはさむつもりはありません。この業界でいつくかの業者は近年、廃業したと言われています。
しかし、業界の識者からは珪砂が取れなくなって行き詰ったのではなく、不況と安価な輸入珪砂に押されて経営が成り立たなくなったとの説明がされています。
良質の珪砂でも一トン3000円という価格を知れば、その説明に強い説得力を感じずにいられません。
ここには我が国の一次産業の代表格であるコメ作りが専業で成り立たなくなったのと同じ構造変化が見て取れます。
かつて我が国の主要産業は農業であり、50年前までは農家世帯の比率が50パーセントを超えていました。
農業が標準的な稼業だった当時は、病気に罹らず贅沢もしないで田畑で普通に働けば、それなりの生活が出来た時代だったということでしょう。
その後、機械化によって工業の生産性が飛躍的に向上すると、労働者の賃金も上がり、国民の生活は大きく改善しました。
しかし農業は地理的制約から農地を増やす余裕に乏しく、かつ単位面積あたりの収量にもおのずと限界があることから、工業のように生産性を伸ばすことが出来ませんでした。
コメには事実上の輸入制限があり、かつ消費者の嗜好によって国産米の価格はかなり高めに維持されていますが、豊かな生活が送れる専業農家はほとんどいません。
珪砂には輸入制限がなく、ユーザーも嗜好ではなく経済性を第一義に合理的な判断を下しますから、より環境は厳しいといえます。
資材費、人件費が高騰する中で、採算を維持するためにはより多くの売上を確保しなければなりません。価格が自由にならない以上、残る選択肢は珪砂の採掘量を増やすことだけです。
昭和40年代から50年代にかけて珪砂の増産が進んだ背景には、珪砂業界自身が採算を取るために大量生産に走った一面があったと想像できます。
苦境は農業と同じと述べましたが、農業とは異なる事情もあります。それは珪砂採掘は永続的な産業ではないということです。
農業はさまざまな工夫を凝らすことで同じ水田で常にほぼ一定の収量を毎年上げることができる産業であり、半永久的な土地利用技術といえます。
これに対して珪砂の採掘は掘った分だけ資源を減少させるので、間違いなく有限な産業です。資源が尽きれば否応なく採掘は終わりです。
資源自体を再生産できる農業と資源の引き算しかできない鉱業の違いです。大量の採掘は資源の枯渇を早め、自らの首をしめることにつながりました。
以下は瀬戸市統計書から抽出した珪砂用途別生産量の推移です。対象としたのは1981年から22年間です。
| 西暦 |
ガラス用 |
その他用 |
合計 |
非ガラス比率 |
| 1981 |
2011 |
379 |
2390 |
15.9% |
| 1982 |
1900 |
364 |
2264 |
16.1% |
| 1983 |
2126 |
381 |
2507 |
15.2% |
| 1984 |
2196 |
491 |
2687 |
18.3% |
| 1985 |
2080 |
496 |
2576 |
19.3% |
| 1986 |
1829 |
470 |
2299 |
20.4% |
| 1987 |
1682 |
390 |
2072 |
18.8% |
| 1988 |
1658 |
459 |
2117 |
21.7% |
| 1989 |
1698 |
540 |
2238 |
24.1% |
| 1990 |
1716 |
571 |
2287 |
25.0% |
| 1991 |
1653 |
601 |
2254 |
26.7% |
| 1992 |
1441 |
569 |
2010 |
28.3% |
| 1993 |
1411 |
590 |
2001 |
29.5% |
| 1994 |
1405 |
618 |
2023 |
30.5% |
| 1995 |
1213 |
689 |
1902 |
36.2% |
| 1996 |
1156 |
687 |
1843 |
37.3% |
| 1997 |
1040 |
696 |
1736 |
40.1% |
| 1998 |
821 |
628 |
1449 |
43.3% |
| 1999 |
774 |
645 |
1419 |
45.5% |
| 2000 |
677 |
789 |
1466 |
53.8% |
| 2001 |
600 |
715 |
1315 |
54.4% |
| 2002 |
561 |
683 |
1244 |
54.9% |
上記の表を下のグラフに表しました。採掘した土砂はふるいにかけられ、珪砂と砂利に分離して用途別に出荷されます。珪砂はガラス用に使われ、そのガラスにも板ガラス、ビンの区別がありますが、
ここでは合算しました。また、ガラス以外の用途には鋳物用なども含まれますが、比率がわずかであるためここでは無視しました。砂利の用途は建材用で、生コンに骨材として売られます。

鉱床の良し悪しは目的とする鉱物が全出荷量に占める比率から推察できます。本来、珪砂の層は珪砂含有率95パーセント前後のものをいい、このグラフからも1980年代まで良好な鉱床を採掘していたことが分かります。ところが1990年代以降は不純物の多い二酸化珪素、言い換えれば砂利の比率が一本調子で上がっています。砂利は純粋な二酸化珪素ではなく、ガラスにすることができません。良好な鉱床の消尽に伴い、砂礫層まで採掘することになったようすが伺えます。
この傾向は近年ますます高まり、2000年以降に至っては、珪砂業界の出荷物の半分以上を砂利が占めるようになりました。これでは何が本業かわかりません。

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